相撲観戦で、結びの一番の後に幕下力士が弓を振り回す姿を見たことはありませんか?「あれは何をしているの?」「どんな意味があるの?」と疑問に思う方も多いでしょう。この弓取り式は、平安時代の相撲節会を起源とし、江戸時代に現在の形が整えられた伝統的な儀式で、相撲の神事としての側面を象徴する重要な儀式です。本記事では、弓取り式の基本から歴史、担当力士の選出基準、観戦方法まで、相撲ファンなら知っておきたい情報を徹底解説します。
弓取り式の基本|30秒でわかる定義と実施時間

弓取り式は、大相撲の本場所で毎日最後に行われる伝統的な儀式です。
結びの一番(その日の最後の取組)が終わった後、勝者に代わって弓を受け取り、土俵上で華麗に弓を振り回す所作を披露します。
この儀式は、単なるパフォーマンスではなく、相撲が神事であることを象徴する重要な役割を担っています。
弓取り式とは何か?一言でわかる定義
弓取り式(ゆみとりしき)とは、大相撲の本場所で結びの一番の勝者に代わり、作法を心得た力士が土俵上で弓を受け、勝者の舞を演ずることです。
平安時代の相撲節会(せちえ)において、勝った力士に褒美として弓矢が与えられたことが起源とされています。
現在では、結びの一番で勝利した横綱や大関に代わって、幕下以下の力士が弓を受け取り、約3分間にわたって華やかな所作を披露します。
この儀式は、その日の本場所を締めくくる「打ち出し」の前に行われ、相撲興行の最後を飾る重要な儀式として位置づけられています。
弓取り式は何時に行われる?時間と所要時間
弓取り式は、結びの一番が終了した直後、通常18時前後に行われます。
本場所の取組は通常、幕内の取組が15時頃から始まり、結びの一番は17時50分から18時頃に組まれることが多いため、弓取り式は概ね18時前後の実施となります。
所要時間は約3分程度で、弓取り式が終わると「打ち出し」となり、その日の本場所が正式に終了します。
ただし、結びの一番が取り直しになったり、土俵の状態確認などで時間がかかった場合は、開始時刻が若干遅れることもあります。
千秋楽(最終日)では、優勝力士の表彰式などが行われるため、弓取り式の開始時刻がさらに遅くなることもあるので注意が必要です。
弓取り式の意味と目的|なぜ弓を振り回すのか

弓取り式で弓を振り回す行為には、深い意味と目的が込められています。
単なる余興ではなく、相撲が神事であることを象徴する重要な儀式として、長い歴史の中で受け継がれてきました。
弓取り式に込められた3つの意味
弓取り式には、主に以下の3つの意味が込められています。
1. 勝者への祝福と栄誉の象徴
平安時代、相撲に勝った力士には褒美として弓矢が与えられました。
現代の弓取り式は、結びの一番の勝者に代わって弓を受け取ることで、勝者の栄光を讃える意味を持ちます。
2. その日の取組の終了を告げる儀式
弓取り式は、本場所のすべての取組が無事に終了したことを観客に知らせる役割も担っています。
この儀式が終わると「打ち出し」となり、その日の相撲興行が正式に終わります。
3. 神への感謝と清めの儀式
弓を四方に振り回す所作は、土俵を清め、邪気を払い、神々に感謝を捧げる意味があるとされています。
相撲が神事としての側面を持つことを象徴する重要な儀式です。
神事としての相撲と弓取り式の関係
相撲は古来より神事として発展してきた歴史があり、弓取り式もその伝統を色濃く反映しています。
平安時代に宮中で行われた相撲節会は、五穀豊穣を祈願する神事でした。
そこでは相撲が奉納され、勝者には弓矢が褒美として与えられたのです。
弓矢は古来、邪気を払い、魔を退ける力を持つ神聖な道具とされており、弓取り式で弓を振り回す行為は、土俵を清め、神々に感謝を捧げる意味を持ちます。
現代でも、土俵入りや四股、塩をまく行為など、相撲には神事としての要素が数多く残されています。
弓取り式は、そうした相撲の神事的側面を象徴する儀式として、現在も大切に受け継がれているのです。

弓取り式の歴史|起源から現代への変遷

弓取り式の起源には諸説あり、専門書でも「起源は定かではない」とされています(『相撲大事典』現代書館、2002年)。平安時代の相撲節会から続く伝統が、江戸時代に現在の形に整えられ、現代まで受け継がれています。
起源に関する諸説|織田信長の逸話と有力な江戸時代説
弓取り式の起源として語られる説の一つに、織田信長の時代の逸話があります。
ある日、信長が相撲大会を開催した際、結びの一番で勝った力士に褒美として弓を与えました。
しかし、その力士は疲労困憊で弓を受け取ることができませんでした。
そこで、信長の小姓が代わりに弓を受け取り、華麗に舞ったとされています。
ただし、この逸話は俗説とされており、一次資料である『信長公記』には該当する記録が見当たらないことから、否定的な見解もあります(『相撲の歴史』平凡社、1977年)。
現在の弓取り式の原型として最も有力とされるのは、寛政3年(1791年)6月、江戸城での徳川家斉の上覧相撲にまつわる記録です。このとき横綱・2代谷風梶之助が土俵上で弓を受け取り「敬い奉げて四方に振り回した」とされており、複数の専門書がこれを現在の形の始まりと位置づけています(参考:弓取式 – Wikipedia、国立国会図書館レファレンス)。
また、平安時代の相撲節会で既に弓矢が褒美として与えられていた記録もあり、弓取り式の原型はさらに古い時代にまで遡る可能性もあります。
江戸時代から現代への変遷
江戸時代に入ると、相撲は職業として確立され、現在の大相撲の原型が形作られました。
この時期に、弓取り式も正式な儀式として整備され、所作や作法が体系化されていきました。
江戸時代の弓取り式は、結びの一番の勝者が所属する部屋の力士が担当することが多かったようです。
明治時代以降、相撲が近代化される中で、弓取り式の形式もさらに洗練されていきました。
昭和期には、特定の力士が長期間にわたって弓取り式を担当する形式が定着し、現在のスタイルへと発展しました。
2026年現在でも、基本的な所作や作法は江戸時代から続く伝統を色濃く残しており、相撲の歴史と文化を体現する重要な儀式として受け継がれています。
弓取り式のやり方と所作|弓の回し方を詳しく解説

弓取り式の所作は、一見すると自由に弓を振り回しているように見えますが、実際には厳格な型と順序が定められています。
約3分間の儀式の中で、力士は決められた動作を流れるように披露します。
弓取り式の流れ(入場から退場まで)
弓取り式は、以下のような流れで進行します。
1. 待機と入場
弓取り式を担当する力士は、取組中は向正面に控えとして座って待機しています。結びの一番が終わると、勝者が属した方角に合わせて、東方の力士が勝てば東側から、西方の力士が勝てば西側から土俵に上がります(参考:弓取式 – Wikipedia)。
力士は幕下以下の番付ですが、大銀杏(おおいちょう)を結い、化粧廻しを締めて土俵に上がります。
2. 弓の受け取り
土俵上で、行司から弓を受け取ります。
この弓は長さ約2メートル10センチ、重さ約700グラムの本物の弓です。
3. 四股と弓の所作
土俵中央で四股を踏み、弓を縦横に振り回す一連の所作を披露します。
弓を東西南北の四方に向けて振る動作、頭上で回転させる動作、土俵を掘るような『弓を抜く』動作などが含まれます。
4. 退場
すべての所作を終えると、弓を持ったまま入場した側の花道へ退場します。
この時、観客に背中を向けずに後ろ向きに下がっていくのが正式な作法です。
参考:大相撲クイズNo.1046 – 日本相撲協会公式サイト
弓を回す動作に込められた意味
弓取り式で披露される一つ一つの動作には、それぞれ意味が込められています。
弓を四方に向けて振る動作
東西南北の四方に弓を向けて振る所作は、邪気を払い、四方を清める意味があるとされています。
神事としての相撲において、土俵を神聖な場として保つための重要な動作です。
弓を頭上で回転させる動作
弓を頭上で大きく回転させる華やかな動作は、勝者の栄光を讃え、観客に祝福を示す意味があります。
この動作は弓取り式の中でも特に見応えがあり、観客の注目を集める場面です。
『弓を抜く』動作
弓で土俵を掘るような所作は『弓を抜く』と呼ばれ、左右それぞれの方向に行われます。
日本相撲協会によると、この動作は結びの一番で勝った力士の方角から先に行うのが正式な作法です。東方の力士が勝てば東(右)から、西方の力士が勝てば西(左)から弓を抜きます(参考:大相撲クイズNo.955 – 日本相撲協会公式サイト)。
この所作には、土俵に宿る神聖な力を引き出すという意味が込められているとされています。

弓取り式を行う力士|誰がどう選ばれるのか

弓取り式を担当する力士には、一定の条件と選出基準があります。
誰でもできるわけではなく、技術と経験を持った特定の力士が長期間担当するのが通例です。
担当力士の選出基準と条件
弓取り式を担当する力士の条件は、以下の通りです。
基本的な資格
弓取り式を行う力士は、原則として幕下以下の番付に属する力士です。
ただし、儀式の際には大銀杏を結い、化粧廻しを締めて土俵に上がることが許されています。
これは幕内力士に準じた格式を与えられていることを意味します。
所属部屋・一門の条件
日本相撲協会の慣例として、弓取り式は横綱がいる部屋、またはその一門の力士が担当します。横綱が不在の場所では、大関がいる部屋またはその一門から選出されます(参考:弓取式 – Wikipedia)。
技術と経験
弓取り式の所作は複雑で、習得には相当の練習が必要です。
約2メートル10センチ、700グラムの弓を自在に操るには、高度な技術と身体能力が求められます。
そのため、一度担当力士に選ばれると、長期間にわたって同じ力士が務めることが多いです。
所属部屋との関係
歴史的には、結びの一番の勝者が所属する部屋の力士が担当することもありましたが、現代では特定の力士が固定的に担当する形式が一般的です。
現在の弓取り式担当力士
2026年現在、弓取り式を担当する力士は場所や状況によって異なりますが、代表的な担当力士が存在します。
2025年には、天空海(てんくうみ)が弓取り式を担当し話題になりました。
天空海は元幕内力士という異例の経歴を持ち、2025年5月に弓取り式デビューを果たしました。
また、2026年1月場所では上戸(かみと)が弓取り式を担当していることが確認されています。
過去には聡ノ富士(さとのふじ)が長年にわたって弓取り式を担当し、その華麗な所作で多くのファンを魅了しました。
聡ノ富士は同じ伊勢ヶ濱部屋の弟弟子にあたる横綱・照ノ富士が引退を発表した2025年1月場所でも弓取り式を務め、感動的な場面を生み出しました(なお、両者の師匠は伊勢ヶ濱親方です)。
海外公演では、2025年10月のロンドン公演で琴翼(ことつばさ)や花の海(はなのうみ)が弓取り式を担当し、国際的な舞台で日本の伝統文化を披露しました。
弓取り式を観戦する方法|見やすい席と入場時間

弓取り式を実際に観戦したい方のために、見やすい座席や入場時間、撮影マナーについて解説します。
弓取り式が見やすいおすすめの座席
弓取り式を観戦する際、どの座席から見るかは重要なポイントです。
入場側の花道に近い席が見やすい
弓取り式を担当する力士は、結びの一番で勝った力士の方角(東または西)の花道から入場します。東方の勝者なら東側、西方の勝者なら西側からの入場となります。
したがって、東側・西側それぞれの砂かぶり席や溜席、マス席Aは、入場時に力士の表情や細かい動作まで間近で観察できる席です。どちら側に座っていても、半分の確率で入場を間近に見られることになります。
全体を見渡すなら2階席
弓を振り回す動作全体を俯瞰して見たい場合は、2階のイス席がおすすめです。
土俵全体が視野に入るため、弓の軌跡や所作の流れを把握しやすくなります。
何時までに入場すれば見られる?
弓取り式を確実に観戦するためには、遅くとも17時30分までに入場することをおすすめします。
結びの一番は通常17時50分から18時頃に始まり、その直後に弓取り式が行われます。
17時30分に入場すれば、結びの一番も含めて余裕を持って観戦できます。
千秋楽は特に注意
千秋楽(最終日)は優勝力士の表彰式などがあるため、弓取り式の開始時刻が通常より遅くなることがあります。
18時を過ぎることもあるため、千秋楽を観戦する際は時間に余裕を持って計画しましょう。
早めの退場は避けよう
結びの一番が終わると退場する観客もいますが、弓取り式は相撲興行の正式な締めくくりです。
所要時間は約3分と短いため、ぜひ最後まで観戦することをおすすめします。
弓取り式を撮影する際のマナー
弓取り式の撮影は可能ですが、いくつかのマナーを守る必要があります。
フラッシュ撮影は禁止
弓取り式を含む取組中のフラッシュ撮影は厳禁です。
力士の集中を妨げ、弓を落とすなどの事故につながる危険性があります。
スマートフォンやカメラのフラッシュ機能は必ずオフにしましょう。
周囲の視界を遮らない
撮影の際は、立ち上がったり、大きくカメラを構えたりして、周囲の観客の視界を遮らないように注意してください。
特に砂かぶり席や溜席では、他の観客への配慮が重要です。
三脚・自撮り棒の使用は禁止
国技館内では、三脚や自撮り棒の使用は禁止されています。
手持ち撮影のみが許可されているため、撮影機材には注意しましょう。
動画撮影も可能
弓取り式の動画撮影も可能ですが、上記のマナーを守ることが前提です。
SNSなどへの投稿は個人の範囲内であれば問題ありませんが、商用利用は許可が必要です。
弓取り式の豆知識・よくある質問

弓取り式に関する興味深い豆知識や、よくある質問にお答えします。
弓を落としたらどうなる?
弓取り式で最も気になるのが、「もし弓を落としたらどうなるのか?」という疑問でしょう。
実際には、熟練した力士が担当するため、弓を落とすことは極めて稀です。
しかし、万が一弓を落とした場合でも、儀式が中止になったり、罰則があるわけではありません。
力士は冷静に弓を拾い上げ、所作を続行します。ただし、弓を拾う際は手を土俵についてはならず、足の甲に弓を乗せて蹴り上げて掴み取るのがしきたりです。これは手を土俵につくことが「負け」を連想させ縁起が悪いためです(参考:弓取式 – Wikipedia)。
弓取り式は神事的な意味を持つため、弓を落とすことは縁起が良くないとされますが、あくまで儀式の一部であり、深刻な問題にはなりません。
過去には、弓を落とした力士が次の場所でも継続して担当した事例もあり、一度のミスで役を外されることはないようです。
弓取り式が中止になる場合はある?
弓取り式は原則として毎日行われますが、例外的に中止になる場合もあります。
不戦勝の場合
結びの一番が不戦勝で終わった場合、弓取り式は行われないことがあります。
実際に土俵で勝負がついていないため、勝者の舞としての弓取り式を行う意味が薄れるためです。
時間の都合
結びの一番が大幅に遅れた場合や、取り直しが何度も発生した場合、時間の制約から弓取り式が省略されることもあります。
ただし、これは非常に稀なケースです。
担当力士の不在
弓取り式を担当する力士が怪我や病気で不在の場合、代役が立てられるか、中止になることもあります。
弓取り式は高度な技術を要するため、誰でも代役を務められるわけではありません。
弓取り式で使う弓はどんなもの?
弓取り式で使用される弓は、本物の弓です。
日本相撲協会によると、弓のスペックは以下の通りです。
- 長さ:約2メートル10センチ
- 重さ:約700グラム
この弓を自在に振り回すには、相当な腕力と技術が必要です。
弓は竹製で、弦は正式な弓と同じように張られています。
装飾は施されておらず、シンプルな実用的な弓が使われます。
この弓は結びの一番の勝者に与えられる「褒美」としての象徴的な意味を持ちますが、実際には勝者が持ち帰ることはなく、儀式用として大切に保管されています。
参考:大相撲クイズNo.1046 – 日本相撲協会公式サイト

まとめ|弓取り式を知って相撲観戦をもっと楽しもう

弓取り式は、単なる余興ではなく、相撲の歴史と伝統を象徴する重要な儀式です。
この記事で解説したポイントをまとめます。
- 弓取り式の定義:結びの一番の勝者に代わり、幕下以下の力士が弓を受け取り、土俵上で勝者の舞を演ずる儀式
- 実施時間:結びの一番終了直後、通常18時前後に約3分間実施
- 意味と目的:勝者への祝福、その日の取組終了の宣言、神への感謝と清めの儀式
- 歴史:平安時代の相撲節会を起源とし、現在の形の原型は寛政3年(1791年)の谷風梶之助による上覧相撲とされる。織田信長にまつわる逸話は俗説のひとつ
- 所作の意味:四方に弓を振る動作は邪気を払い、『弓を抜く』動作は勝者の方角(東または西)から順に行う
- 担当力士:横綱(不在時は大関)がいる部屋または一門の幕下以下の力士で、高度な技術を持つ特定の力士が長期間担当
- 観戦方法:弓取り力士は勝者の方角(東または西)から入場するため、どちらの側の席でも楽しめる。17時30分までの入場がおすすめ
弓取り式を理解することで、相撲観戦の楽しみが一層深まります。
次回本場所を観戦する際は、ぜひ最後まで残って弓取り式をご覧ください。
華麗な所作の一つ一つに込められた意味を感じながら観戦すれば、相撲の奥深さをより実感できるはずです。
初めて相撲を観戦する方も、この記事の知識があれば、弓取り式を十分に楽しめるでしょう。
相撲の伝統と文化を体現する弓取り式を、ぜひ会場で体感してみてください。


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